第11回 旋法とは(その2)

最終更新: 3月23日



旋法について

第10回 旋法とは(その1)

第11回 旋法とは(その2)(この記事)

旋法の情緒的意味

各旋法は、その音域や、音階の中にある半音の位置、フィナリスとドミナントとの音程関係などから、それぞれ独特の雰囲気を持っています。以下は旋法を、ドミナントの低い方から順に並べたものです。


 一番低い第2旋法の低さと第7旋法の高さはかなり際立った特徴ということがよくわかると思います。真ん中の6つの旋法は、ドミナントのラとドを3つの旋法が共有していて、フィナリスの高さがその性格を決定していることが分かります。(第3旋法については、ミの5度上であるシをドミナントと捉える場合と、より”安定している”ドをドミナントとする場合があります)

 グイードの手で有名な理論家グイード・ダレッツォは「旋法が多様であるのは、心的状態が多様であることに適うものである」と述べています。

 この旋法ごとの性格を理論家たちは以下のように表現しています。



中世の理論家

 矛盾している所もありますが、大体共通するイメージがあるところもあります。それぞれの理論家の考えが個性的で面白いですね。特にヨハネス・アッフリゲメンシスの物言いは独特で、第3旋法や第4旋法の「がさつ」、とか「お世辞たらたら」などというのは、他に言い方なかったのかな、と思わせるほどです。

 この第3旋法と第4旋法の特徴の差については、理論家に繰り返し語られるとある逸話があります。

楽器に合わせて歌われたフリギアつまり第3旋法が、それを聴いていた一人の若者を刺激して、自分が求婚していた少女の部屋にすぐさま、力づくで押し入りたいという性急な気持ちを抱かせたという。ところがフリギア旋法がヒポフリギア旋法に、つまり第3旋法が第4旋法に変えられると、その若者はその旋法の穏やかさによって気を静められ、和まされたのであった。

 この逸話の影響もあってか、第3旋法と第4旋法の特質に関する記述は、古今の理論家たちの見解がだいたい一致しているようです。

 そして全体としては、正格旋法に対して変格旋法の方が暗いか静かであるということに関しては一致しているようです。

ルネサンス期の理論家

フィンクは各旋法を太陽と太陽系の惑星および月になぞらえていますが、他にグイードの伝統では、8つの旋法をキリストが山上の垂訓中に説いた8つの幸福になぞらえたり、宇宙の四大と4種の体液と気質を持った小宇宙としての人間に関係づけられたりもしました。

 これらの旋法の性格は大方において、もともとあった膨大なグレゴリオ聖歌のレパートリーを分類した際に、その内容との連想から考えられました。そして新しく曲を作る場合はその内容に合った旋法を選ぶことが理論家によって推奨されました。

ポリフォニーにおける旋法

 これまで説明したことは全て、単旋律、特にグレゴリオ聖歌における旋律と音階の特徴、またはそこから導き出された情緒的特徴でした。

 ではポリフォニーにおいては、旋法はどのような役割を担ったのでしょうか。ポリフォニーは、対位法という考え方に支配されていますが、基本的にポリフォニーを作曲する際の第一の指針はこの対位法理論であって、旋法理論はその考え方からは切り離されたものと考えられていました。

 つまり、ポリフォニーの中のどこかの声部が旋法的に正しければ、残りの声部は対位法の理論が自動的に規定してくれるので、そこに旋法理論の入り込む余地はなかったのです。この2つの理論の乖離が完全に取り払われ、この両者が相互依存の関係にあるという理論が確立するに到るには、1558年のザルリーノの《調和概論》まで待たなければなりませんでした。

 1558年というとルネサンスも後期に押し迫り、パレストリーナが活躍し、ビクトリアもすでに生まれていたという時期です。そのくらいの時期までのポリフォニー曲を扱う場合、旋法を演奏のヒントにするためには、ポリフォニーの構造と旋法を結び付けるというよりは、どの声部が主にそのポリフォニーの中で旋法的機能を果たしているかを考えるという事が有効であるようです。つまり、どの声部が「対位法理論によって自動的に規定」されていて、「旋法的に正しい声部」がどの声部なのかを見極めるという事です。なぜなら、その声部(旋法声部といいます)の旋法的情緒が、ポリフォニー全体の旋法的情緒を支配していると考えられるからです。

 グレゴリオ聖歌が定旋律となっている場合、話は単純です。その定旋律を受け持っているパート(多くの場合テノール)が旋法声部です。

 では全ての声部が新しく作曲されている場合はどのようにして旋法声部を判断すればいいのでしょうか。これを判断するためには当時の作曲理論書を紐解かなければなりません。

 1487年のブルツィウスの記述によると、3声の場合、まずはソプラノを作曲し、次にテノール、最後にバスを作曲するのが良いとされています。このことからは最上声部を旋法声部と見なすという事が読み取れるのですが、1500年代初頭の理論書では、「たいていの場合テノールが旋法声部だが、その他でも構わない」というような曖昧な書かれ方がされています。しかし徐々にテノールとソプラノが対になって旋法声部の役割を果たすと考えられるようになったようです。

 ではこのどちらか、あるいは両方に気を配りながらその旋法性を読み解いていけばいいという事になりますが、それでもまだ少し複雑ですよね。どっちやねん!どっちもってなんやねん!って言いたくなっちゃいますよね。でも何事も、はっきりしないということも一つの味わいだとも思います。理論が明確になるほど、多様性が失われるということはよくあることです。混沌を割り切らず、混沌のまま受け入れるという姿勢も忘れたくないように思います。

 それでももっとわかりやすい方法が知りたいという方は、安心して下さい。もっとズバッとしたことを言ってくれている理論家がいます。1563年のガルス・ドレスラーです。ドレスラーによると、

模倣を始める最初の声部が旋法声部である。

これはかなりズバッとしていますよね。単純明快!各セクションにおいて、初めに歌いだすパートが旋法声部だ!という訳です。

 いつものように、いろんな人がいろんなことを言っていますから、何を採用するかは人それぞれでいいと思いますが、大体このような考え方で旋法声部を特定できそうです。

まとめ

 今回は、旋法の持っている固有の情緒について、それからポリフォニーにおいて旋法がどのように捉えられていたかをお話ししました。サリクス・カンマーコアSalicus Kammerchorのレパートリーとしている時代の音楽は、皆多かれ少なかれ旋法的な発想で書かれています。

 そして考えてみると、8-9世紀の中世から跡付けられる旋法の考え方が、長短の調性に推移していくのが1700年代前後ですから、その歴史は800年以上です。調性の時代よりずいぶん長いんですね。このことを考えると、旋法を理解するという事は、西洋音楽の歴史の3分の2以上を理解する上での助けになるということが言えると思います。

 このブログが、皆様の音楽体験の一助となれば幸いです。

(櫻井元希)

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