第22回 グレゴリオ聖歌「シメオンはお告げを受けていた」


第2回定期演奏会のプログラムについて

第19回 H. シュッツ 「音楽による葬儀」 その1

第20回 H. シュッツ 「音楽による葬儀」 その2

第21回 H. シュッツ 「音楽による葬儀」 その3

第22回 グレゴリオ聖歌「シメオンはお告げを受けていた」(この記事)

第23回 J. オケゲム「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」

第24回 J. デ・プレ「オケゲムの死を悼む挽歌」

今回は、第2回定期演奏会プログラムの後半の最初のプログラム、

グレゴリオ聖歌 聖母お清めの祝日のためのアンティフォナ 「シメオンは聖霊からお告げを受けていた」 Gregorian Chant : Antipohona in Purificatione Beate Mariae Virginis “Responsum accepit Simeon a Spiritu Sancto”

についてお話しさせていただきます。

演奏会詳細についてはコチラ

 このグレゴリオ聖歌については、旋法について執筆した過去のブログでも具体例として触れているのでよろしければコチラもご覧ください。



 こちらの画像は、Einsiedeln 121という写本に載っている、このグレゴリオ聖歌のネウマです。この写本は以下のサイトに上がっているので、そのすべてをweb上で見ることが出来ます。

Einsiedeln 121

 これを四角譜にしたものが以下です。


 なんといっても特徴的なのは、各セクションの終止の仕方です。この聖歌は第二旋法、すなわちレをフィナリスとし、ファをドミナントとする旋法なのですが、ほとんどの終止でフィナリスのレではなく、ミで終止しているのです(緑の四角で囲った部分)。

 そしてそのほとんどすべてがサリクス(上昇の3音以上のネウマで最後から2番目の音に装飾があるとされる)で、mortemの一カ所のみがペスクワッスス(上昇の2音ネウマペスの一音目が装飾ネウマとされるオリスクスとなったもの)です。

 すなわち6か所あるミの終止全てが、その直前に装飾ネウマがあるということです。そして、このように正規の終止「ミ→レ」ではなく、反対に「レ→ミ」と終止するカデンツァのことを、「反転カデンツァ」といいます。

 この反転カデンツァはサリクスやペスクワッススに関連して述べられることが多く、その意味で、この聖歌に見られる反転カデンツァは典型的反転カデンツァと言えるのかもしれません。

 しかしそれにしても多すぎます反転カデンツァ!正規のレの終止を赤の四角で囲いましたが、レの終止は2か所のみです。実に正規の終止の3倍が反転カデンツァなのです!

 なぜこんなにミで終わるのでしょうか?それはこの聖歌のテキストに起因しています。

シメオンは聖霊からお告げを受けていた、 「主の遣わす救い主を見るまで 死ぬことはない」と。 そして幼子が神殿へ導かれた時、 彼はその腕に幼子を抱き、 神を祝福し、言った。 「主よ、今こそ去らせたまえ、あなたの僕を平安のうちに」 ルカ2.26-29

 これがこの聖歌のテキストです。シュッツの「音楽による葬儀」の第3部のテキストと同一、いわゆるシメオンのカンティクムです。

 この聖歌は聖母お清めの祝日に歌われますが、この祝日は聖母マリアが生後40日の幼子イエスを、当時の習慣に従って神殿へ連れて行き、清めの儀式を行ったということを記念する祝日です。  母子が清めに訪れたその神殿で、シメオン老人が幼子イエスに出会ったので、この祝日にはシメオンのカンティクムをテキストを用いたこの聖歌が歌われます。

 そのシメオン老人は「救い主を見るまで死なない」とお告げを受けていました。そう、この「死なない」の象徴が反転カデンツァなのです。

 先唱部分がファで始まりレで終わっていますので、この聖歌が第二旋法だということは冒頭を聴くだけで判断されます。しかし待てど暮らせどレの終止が来ない。この終止が来ない、ということが、人生の終わりが来ない、そしてその終わりを待ちわびるシメオンの想いと重なります。

 レを待ちわびる聴衆と、死を待ちわびるシメオンがいつその終止を迎えるか、それは"accepit eum in unlas suas"「彼はその腕に幼子を抱いた」時です。この箇所のカデンツァは正規のカデンツァ「ミ→レ」であるうえ、さらにフィナリスのレを2回繰り返しています。ここで待ちわびたレを強調することで、シメオンの人生の終わり、すなわち彼の「死」が決定づけられるのです。

 そして"in pace"「平安のうちに」という最後の部分の最後の音節では非常に長いメリスマとなり、何度もドミナントのファ(ソルミゼーションでは、ミが固いのに対してファは柔らかいとされています)を繰り返し、フィナリスのレへと、安らかに終止するのです。

 この聖歌のもう一つの特徴は、装飾(であるとされる)ネウマが非常に多いという事です。先ほど話題にあがったサリクスは10回、ペスクワッスス1回ですが、そのほかにもプレッスス8回、オリスクス1回、クィリスマ10回と、合計30もの装飾ネウマがみられます。本当に装飾だらけです!


(装飾ネウマの一覧です。上の写本の画像から探してみてください)

 特に印象的なのは、シメオンのセリフの最初の部分。 “Nunc”「今こそ」にあてられた2連続のサリクスで、救い主を目の当たりにし、感動に打ち震えるシメオンの心を非常に直接的に映し出されています。

(櫻井元希)

【次の記事】

第23回 J. オケゲム「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」

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【次回公演】

Salicus Kammerchorの次回公演は『第3回定期演奏会』です。

4月22日(土)14:00開演

横浜市栄区民文化センター リリスホール

4月27日(木)19:15

開演台東区生涯活動センター ミレニアムホール

曲目

”Lobe, den Herrn alle Heiden” BWV 230

”Der Geist hilft unser Schwachheit auf” BWV 226

詳細はコチラ↓

http://www.salicuskammerchor.com/concert

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【最新動画配信!】

第2回定期演奏会より、Heinrich Schütz “Musikalische Exequien” op. 7 III. Canticum Simeonisを公開中です!


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#グレゴリオ聖歌 #ネウマ #旋法

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