第25回 「カンタータ」とは


 今回は、10月に開催するLa Musica Collanaとのジョイントコンサートにちなんで、そもそも「カンタータ」ってなんぞやというお話をしたいと思います。

ジョイントコンサート詳細はコチラ

カンタータとは

 手元にあるニューグローブ音楽大辞典によると、カンタータとは

「単声または多声のための器楽伴奏付きの声楽作品」

ということになっています。

 物凄く広い定義ですね笑。ようは「器楽付きの歌」ということのようです。

 それで、もちろんそれだけで説明が終わっているわけではなく、この辞典ではこの先なんと19ページに渡って延々とカンタータを説明しているのです。19ページ・・・なぜこれほどまでに長大な説明が必要なのでしょう。

 ちなみに参考までに、「パレストリーナ」の項は9ページ、「ラッスス」の項も9ページ、「モンテヴェルディ」の項は12ページ(いずれも作品目録を除く)、「ネウマ」16ページです。これらと比較しても19ページというのがいかに長大かということがわかると思います。

 旋法や記譜法の説明の際にもお話しましたが、時代を遡れば遡るほど、述語の定義が曖昧になっていきます。各時代、各地域によって、同じ言葉でも多様な意味、特徴をもつということはよくあることなのです。

 そのためニューグローブ音楽大辞典では「カンタータ」を、

1800年までのイタリアのカンタータ

1800年までのドイツのカンタータ

1800年までのフランスのカンタータ

1800年までのイギリスのカンタータ

1800年以降のカンタータ

という5つの時代、地域区分に分けて説明しています。そしてこの5つの区分を更に細かく、例えばイタリアなら

1.起源ローマ

2.カリッシミとチェスティ

3.ストラデッラとステッファニ

などと細分化して説明しているためこれだけ長大になっているのです。

ドイツでの「カンタータ」

 私たちが話題にしているのは、バッハのカンタータですので、他の国についてはさておいて、ドイツのカンタータについてみていきましょう。これがまた、輪をかけてへんてこな経緯を持っているのです。

 まず、またまたものすごくそもそもの話なのですが、バッハは、「カンタータKanate」という語を、殆ど使っていません。

「なんですって!?バッハといえばカンタータ、カンタータといえばバッハなのに!?」

という声が聞こえてきそうですね。。。でもそうなんです。

 バッハは普通、現在私たちが「カンタータ」と呼び習わしている作品には、(ごくわずかな例外を除いて)「教会カンタータ」の場合は「コンチェルト Concerto」、「世俗カンタータ」の場合は「音楽劇Dramma per musica」と書き記していました。


(10月に演奏するBWV138の自筆総譜冒頭部分、「三位一体節後第15主日のためのコンチェルト Concerto Dominica 15 post Trinitatis」と書かれている)

 またそもそも教会カンタータの場合、このような曲のジャンル、種類を示すような語を記さないことも多く、その場合はそのカンタータが演奏された主日と、歌詞の最初の行が書かれました。


(BWV127の自筆総譜冒頭部分、Dominica Esto mihiという主日名の後に、Herr Jesu Christ wahr Mensch und Gottという、このカンタータの歌詞の最初の行が書かれている)

 そしてバッハの生前に出版された唯一の教会カンタータである、BWV71の出版譜の表紙には「教会モテットKirchen MOTETTO」と記載されています。


 ではなぜバッハ自身がカンタータと呼んでいない作品群を我々がカンタータと呼んでいるのかというと、それは19世紀の、バッハ協会の楽譜校訂者がこう呼び始めたことに由来しています。

 つまり後の時代の人が、タイトルがついていなかったり、コンチェルトと呼ばれていたりする作品群を一つの曲種として扱うために「カンタータ」と呼ぶようになったのです。おそらく現代的な意味でのコンチェルト(協奏曲)との混同を避けるという意味もあったのだと思います。

 そしてさらにおもしろいのは、バッハの作品だけでなく、それ以前の同種の作品もまた「カンタータ」と呼ぶようになったということです。

 1700年以前のドイツの教会音楽には「カンタータ」という語は全く見られず、世俗音楽についても極稀であったにも関わらずです(以下世俗カンタータについてはおいておいて、今私たちが問題としている教会カンタータに絞ってお話します)。

 1700年以降も、カンタータというとまずソロ・カンタータのことを指し、現在私たちが教会カンタータと呼んでいる作品は「教会曲Kirchenstück」「教会音楽Kirchenmusik」「コンチェルト」「モテット」などと呼ばれていました。

 確かにこれらの呼び名が様々あるが同種の作品について、ひとまとめに「カンタータ」と呼ぶようにするというのは便利で有用だと私も思います。それが未だにこの呼称が広く使用されている理由ではないでしょうか。

 ひとまずここでは教会カンタータを「ルター派の礼拝における主要音楽として、構造的にはここに比較的独立した幾つかの楽章からなる声楽曲」とするニューグローブの定義を採用することとし、バッハ以前のドイツの教会カンタータについてお話していこうと思います。

バッハ以前のドイツの教会カンタータ

 バッハも含め、ドイツの教会カンタータは、用いた歌詞の種類によってある程度分類することが可能です。

 歌詞の種類とは、

聖句(聖書の言葉)

コラール

自由詩

の3つです。

 以下バッハ以前のドイツの教会カンタータについて、この歌詞の面から場合分けしてお話しいたします。

1.単一種類の歌詞による教会カンタータ

2.二種類の歌詞による教会カンタータ

3.多種混合の歌詞による教会カンタータ

 この3つの場合分けが可能になるわけですが、D. Buxtehudeはこの全てのタイプの教会カンタータを作曲しました。彼の作品の例を挙げながら説明いたします。

1.単一種類の歌詞による教会カンタータ

 ドイツにおける教会カンタータは、礼拝の中で福音書朗読と説教との間に置かれ、その日に読まれた福音書の章句を解釈し、説教につなげるというような役割を持っていました。

 そのため、最も単純な話、その福音書の章句をテキストとした教会カンタータも存在します。これが教会カンタータの第1のタイプ、単一の種類のテキストをもつ教会カンタータの一種です。しかしこの場合は、各曲を独立して展開させることが難しく、流動的な構成になりがちです。つまり上の定義でいうところの「比較的独立した幾つかの楽章」というところからは少し外れてしまいます。

 このタイプにはもう一つ、詩編をテキストとしたものもあります。これは、「カンタータ風詩編コンチェルト」とも呼ばれています。詩編は1節、2節というように詩の段階で独立した幾つかの部分を持っていますので、福音書をテキストとしたものよりも、独立した楽章として作曲するのに適しているといえます。

 詩編を用いれば、それぞれの節をさまざまな形で音楽化することが可能で、ある節はフーガ、ある説はアリア、ある節はコンチェルト風に、と作曲の可能性を広げることとなりました。

D. Buxtehude "Cantate Domino canticum novum" BuxWV 12


(詩編96をテキストとしたカンタータ風詩編コンチェルト)

 また、コラールのみをテキストとしたカンタータも存在し、これは「純粋な」コラール・カンタータとも呼ばれます。ブクステフーデの大規模な「コラール・カンタータ」でその頂点を見ましたが、コラールそのものに対する作曲家の興味の薄れもあり、その後、バッハを除けばこの習慣は廃れてしまいました。

 聖句、コラールときましたので、残りは自由詩をテキストとしたものですが、これは「アリア・カンタータ」とも呼ばれ、後のカンタータのアリアの楽章を思わせるような様々なアイデアが用いられた作品が作られました。

2.二種類の歌詞による教会カンタータ

 上の3種類の歌詞(聖句、コラール、自由詩)から、テイストとして2つを選んだタイプのカンタータです。「コラールと聖句」、「コラールと自由詩」という組み合わせはあまり一般化しませんでしたが、「聖句と自由詩」という組み合わせはよく用いられました。

 これは、聖句の内容を自由詩で説明するような、いわゆるトロープスとして取り入れられるようになりました。聖句をコンチェルトとして、自由詩をアリアとして作曲する「コンチェルトーアリア・カンタータ」として17世紀の教会カンタータでは最も重要な形式となりました。

 多くの場合大規模な聖句によるコンチェルトを最初と最後に配置し、その間に幾つかの自由詩によるアリアを置くという形をとっていましたが、この形を基本として、最後の楽章を聖句ではなくコラールを配置するというやり方が一般化すると、次第にこの「コンチェルトーアリア・カンタータ」は廃れていきました。

D. Buxtehude "Gott fähret auf mit Jauchzen" BuxWV 33


(聖句と自由詩による「コンチェルトーアリア・カンタータ」)

3.多種混合の歌詞による教会カンタータ

 聖句を、コラールと自由詩によって説明していくようなカンタータが一般化するにつれ、その歌詞の採用の仕方や、音楽の構成の仕方も複雑になっていきました。ちょうどバッハのカンタータがこれら3つの歌詞の種類(聖句、コラール、自由詩)を複雑に組み合わせ、多種多様な作曲技法によって作曲したように、これらを分類、整理することは困難です。

D. Buxtehude "Ihr lieben Christen, freut euch nun" BuxWV 51


(聖句、コラール、自由詩による多種混合の歌詞による教会カンタータ)

このことについてはコチラもご参照ください

 このような複雑化の延長線上に、レチタティーヴォ、ダ・カーポアリアの採用という教会カンタータの劇的転換が起こったといえます。

 この転換は、テキストの側からもたらされました。牧師であったエルトマン・ノイマイスターは、1700年に発表した周年用の教会カンタータ歌詞集においてレチタティーヴォとアリアを用いたのです。

 彼は「私が考えるに、正にカンタータというのはレチタティーヴォ様式とアリアとから成るオペラの一部分と同じなのである」と、この歌詞改革について説明しました。

 歌詞の面で言えば、同じ自由詩なのですが、世俗の形式であるレチタティーヴォとダ・カーポアリアを教会カンタータに持ち込んだことはかなりショッキングな出来事で、バッハの教会カンタータが今残されているように劇的な性格を持ち得たのは、この改革の成果であったともいえるのです。

 今回は、そもそもドイツバロックでいう教会カンタータとはどのように定義されるのか、そしてバッハ以前の教会カンタータにはどのようなものがあったかということを見ていきました。

 次回は、バッハのカンタータについてお話いたします。

(櫻井元希)

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【次回公演】

Salicus Kammerchorの次回公演は来年2018年5月の第4回定期演奏会です。

また関連公演として、Ensemble Salicusのデビューコンサートが10月18日に予定されています。

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第2回定期演奏会より、Heinrich Schütz “Musikalische Exequien” op. 7 III. Canticum Simeonisを公開中です!


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#カンタータ #バッハ #バッハの技法

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