第5回 ネウマいろいろ




 皆さまこんにちは、渡辺研一郎です。

 5回で学ぶネウマ講座、今回で最終回となります。

 締めのご挨拶は最後にさせていただくこととし、まずはいつも通り、ネウマのお話をさせていただきたいと思います。

 最終回は「ネウマいろいろ」というタイトルを付けさせていただきました。

 前回まで、「単純ネウマ」「複合ネウマ」「特殊ネウマ」「融化ネウマ」という4つの分類に沿ってネウマのお話をしてきました。これまでにもたくさんのネウマが登場しましたから、「一口にネウマといっても色んな種類がある (ネウマいろいろである)」と感じられている方もいらっしゃると思います。

 本当に、ヴィルガ、トラクトゥルス、ペス、クリヴィス、トルクルス、ポレクトゥス、…等々、一口にネウマといっても色んな種類があって、その意味でも「ネウマいろいろ」なのですが、今回僕がお話したいと思うのは、次のような意味での「ネウマいろいろ」なのです。

 同じ種類 (名前) のネウマであっても、記号や文字が付加されたり、ネウマの形が変形するなどして、色々なバリエーションを取り得る。

 例えば、クリヴィスやペス、トルクルスといった名前のネウマで言いますと、次のようなバリエーションがあります。今日はこれらのバリエーションについてお話したいと思います。


◎エピゼマ

 上の表のバリエーションについて細かく見てみましょう。まず下に並べた5つのネウマです。赤で囲った部分に着目してみたいと思います。


 ネウマのバリエーションとして、「エピゼマ」と呼ばれるが付けられる場合があります。上の例の赤丸で囲った部分がエピゼマです。

 エピゼマの付加は、「音価の拡大」つまり「旋律をゆっくり歌う」ことを示していると考えられています。上の5つの例ですと、演奏する際には次のように音価を拡大します。


 エピゼマは、ギリシャ語の「ἐπίσημος (episemos):記号の付いた」という言葉に由来していると考えられていますが、ネウマの話をする場合には、線それ自体が「エピゼマ」と呼ばれます。

◎指示文字

 エピゼマと同様に、ネウマに付加される記号として「指示文字」というものがあります。私たちが扱っているザンクト・ガレン式のネウマにおいては、何かを「指示」する「文字」がネウマに付けられることがあります。例えば下の4つのネウマのようにです。


 左側の列の赤で囲った部分が指示文字です。ここでは “c” や “t” といったアルファベット文字が使われています。

 指示文字に使われる文字は “a, b, c, …” といったアルファベットで、多くが一文字あるいは二文字なのですが、三文字以上の場合もあります。現代の五線譜においても、例えば “rit.” (ritardando:「しだいに遅く」) や、cresc. (crescendo:「しだいに大きく」) というように、旋律に関する何らかの指示が文字によってなされている場合がありますが、それと似ているかもしれません。

 ザンクト・ガレンのネウマの場合、“c” “celeriter” (チェレリテル) というラテン語の頭文字です。“celeriter” には「素早く」という意味があり、つまり “c” が付いているネウマのところは旋律を素早く歌うことが指示されていると考えられます。

 一方の “t” “tenere” (テネーレ) というこちらもラテン語の頭文字です。“tenere” には先ほどの “celeriter” とは対照的に「保つ、留まらせる」という意味があります。“t” がネウマに付いている場合、旋律を保つように、ゆっくり歌うことが示されていると考えられるのです。

◎ネウマの変形

 エピゼマや指示文字の “t” (tenere) を使うことによって、旋律の音価が拡大されることを上でご紹介しましたが、ネウマが形を変えることによってそれを示すという場合があります。例えば、ペスやトルクルスは、次のように形を変えることがあります。ペスは通常の丸みを帯びている形が角ばり、トルクルスはアルファベットの「S」のような形に変化します。


 ペスには上行形の2音が含まれますが、ペスが角ばっている場合、その2音とも旋律をゆっくり歌うことが示されていると考えられています。同様に、トルクルスが「S」のようになっている場合には、トルクルスに含まれる「下-上-下」という3音 (例えば「ドレド」のような) を3音ともゆっくり歌うことが示されていると考えられています。


 エピゼマの使用・指示文字 “t” の使用・あるいはネウマの変形によって旋律の音価が拡大される一方で、指示文字 “c” の使用によって旋律を素早く歌うことが指示される…ネウマの譜面からこのようなことを読みとって演奏に反映すると、グレゴリオ聖歌の旋律に緩急が生まれてきます。今回ご紹介したい次の動画はその緩急が分かりやすいかもしれません。


 “Da pacem Domine”『主よ、平和をお与え下さい』というグレゴリオ聖歌です。この聖歌では、「通常のペス⇔エピゼマ付きのペス⇔角ばったペス」・「指示文字 “c” 付きのクリヴィス⇔エピゼマ付きのクリヴィス」などが出てきます。この動画の演奏者はそれらの違いを反映して歌っているように聴こえます。旋律がゆったりになったり速くなったり、微妙ですがその揺らぎを感じ取っていただけると思います。

 5回で学ぶネウマ講座、最終回までお読みいただき本当にありがとうございます。

 毎回出来るだけ分かりやすい説明を心がけたつもりなのですが、文字と図と若干の動画を通じて行うネウマのお話は、読者の方にとっては捉えづらい・分かりづらい面もあったかと思われます。お詫び申し上げます。しかし、そのような状況下にも関わらず最終回までご覧いただき、本当にありがとうございました。

 第1回記事は「ネウマに学ぶ~五線譜以外の楽譜に触れること~」というタイトルでした。「スイスのザンクト・ガレンの10世紀頃のネウマ」という、ある意味大変限定的な枠の中でのネウマに関する連載でありましたが、日頃、五線譜を通して音楽に接している方が一般的かと思いますし、僕も五線譜を用いて音楽活動をしております。皆さんにとって、ネウマに接することによって音楽を捉えるための引き出しが「ひとつ増えた」ような、そのような気持ちに少しでもなって下さったのなら、連載執筆を担当した者としてとても幸いに思います。

 それでは今回も、そしてこれまで、お読みいただきありがとうございました!

(渡辺研一郎)


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