第22回 グレゴリオ聖歌「シメオンはお告げを受けていた」
第2回定期演奏会のプログラムについて
第22回 グレゴリオ聖歌「シメオンはお告げを受けていた」(この記事)
第23回 J. オケゲム「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」
今回は、第2回定期演奏会プログラムの後半の最初のプログラム、
グレゴリオ聖歌 聖母お清めの祝日のためのアンティフォナ 「シメオンは聖霊からお告げを受けていた」 Gregorian Chant : Antipohona in Purificatione Beate Mariae Virginis “Responsum accepit Simeon a Spiritu Sancto”
についてお話しさせていただきます。
演奏会詳細についてはコチラ
このグレゴリオ聖歌については、旋法について執筆した過去のブログでも具体例として触れているのでよろしければコチラもご覧ください。


こちらの画像は、Einsiedeln 121という写本に載っている、このグレゴリオ聖歌のネウマです。この写本は以下のサイトに上がっているので、そのすべてをweb上で見ることが出来ます。
これを四角譜にしたものが以下です。

なんといっても特徴的なのは、各セクションの終止の仕方です。この聖歌は第二旋法、すなわちレをフィナリスとし、ファをドミナントとする旋法なのですが、ほとんどの終止でフィナリスのレではなく、ミで終止しているのです(緑の四角で囲った部分)。
そしてそのほとんどすべてがサリクス(上昇の3音以上のネウマで最後から2番目の音に装飾があるとされる)で、mortemの一カ所のみがペスクワッスス(上昇の2音ネウマペスの一音目が装飾ネウマとされるオリスクスとなったもの)です。
すなわち6か所あるミの終止全てが、その直前に装飾ネウマがあるということです。そして、このように正規の終止「ミ→レ」ではなく、反対に「レ→ミ」と終止するカデンツァのことを、「反転カデンツァ」といいます。
この反転カデンツァはサリクスやペスクワッススに関連して述べられることが多く、その意味で、この聖歌に見られる反転カデンツァは典型的反転カデンツァと言えるのかもしれません。
しかしそれにしても多すぎます反転カデンツァ!正規のレの終止を赤の四角で囲いましたが、レの終止は2か所のみです。実に正規の終止の3倍が反転カデンツァなのです!
なぜこんなにミで終わるのでしょうか?それはこの聖歌のテキストに起因しています。
シメオンは聖霊からお告げを受けていた、 「主の遣わす救い主を見るまで 死ぬことはない」と。 そして幼子が神殿へ導かれた時、 彼はその腕に幼子を抱き、 神を祝福し、言った。 「主よ、今こそ去らせたまえ、あなたの僕を平安のうちに」 ルカ2.26-29