第23回 J. オケゲム「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」
第2回定期演奏会のプログラムについて
第23回 J. オケゲム「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」(この記事)
第24回 J. デ・プレ「オケゲムの死を悼む挽歌」
今回は第2回定期演奏会の後半2曲目に演奏いたします、J. オケゲムの「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」“Miserere / Mort, tu as navre”についてお話しいたします。
J. オケゲム(ca.1410-1497)
オケゲムはフランス・フランドルの作曲家で、15世紀後半に活躍した作曲家の中では、デュファイとジョスカンと並び評せられる作曲家です。
「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」はG. バンショワの死を悼んで書かれたので、バンショワがオケゲムの師であったという可能性も指摘されています。
またオケゲムがこの作品を作曲した同時期に、ビュノワからモテットを捧げられているため、音楽的にもお互いに影響し合う関係にあったものと思われます。
オケゲムは1450年頃からフランス宮廷の礼拝堂聖歌隊員として働いていました。その後サン・マルタン・ド・トゥール教会の財務官に任命され、またその約10年後には司祭に就任しています。
この時代の音楽家の生涯ははっきりとした記録が残っていないことが多く、オケゲムの人生は他の作曲家と比べても分からない点が多いです。彼の人生で分かっていることで、めぼしいものは大体以上です。ただ彼の死に際しては、沢山の詩人が哀歌を捧げ、その中には詩人のG.クレタン、またJ. モリネ(これにジョスカンが曲をつけたものが、次に演奏する作品です)。などがいます。
彼の死は非常に惜しまれ、その名声は死後も衰えることがありませんでした。
「憐れみたまえ/死よ、お前は傷つけた」
“Miserere / Mort, tu as navre”

(Dijion Channsonierより当該曲のSuperiusパート)
この作品は前述のように、G. バンショワの死に際して作曲されました。師(であったかもしれない)バンショワに思いを馳せたからなのでしょうか、オケゲムの作品としては例外的に古風な作風で書かれています。
この作品はフランス語とラテン語で書かれていますが、そのフランス語のテキストはバラードの形式(A-A'-Bという詩形で最後にリフレインが付く)で書かれています。バラードという形式はこの時代、廃れかけていた時代遅れの形式でした。また二重の歌詞、テノールに置かれた定旋律、上声に優位があるところなど、中世のモテットを思わせます。
テノールに定旋律があるものの、もととなった旋律は明らかになっていません。いかにもバンショワの作品から引用されたかのような趣をもった旋律です。
定旋律の出所が明らかになっているのは最後の部分、Pie Jesu domine, dona ei requiemの部分で、これはグレゴリオ聖歌からの引用となっています。通常「彼らに安息を与えたまえ」なので"eis"ですが、この作品はバンショワのための作品なので、「彼に安息を与えたまえ」ということで、"ei"となっています。


Superius(ソプラノ)にあてられたフランス語のテキストは、古いフランス語が使われており、現代フランス語とは語彙も文法も異なる部分があります。
テキストは3番まであり、内容はバンショワをたたえ、その死を悼むものです。1番では死がバンショワの命を奪ったことを、死を擬人化して表現します。擬人化は2番にも続き、「修辞学」「音楽」がそれぞれ擬人化され、そうした抽象的概念までもがバンショワの死を悼んでいるという事が歌われます。3番ではバンショワの人生が歌われ、彼がいかに偉大なキリスト者であったかということが讃えられます。
1. 死よ、お前はその矢を突き立てた 喜びの父に、 お前の旗を善の主人である バンショワに広