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Ensemble Salicus第2回演奏会|終演


去る12月19日、Ensemble Salicusの演奏会が終演いたしました。

ご来場くださいました皆様、お寒い中本当にありがとうございました。


ミサ《ロム・アルメ》は40曲以上も作られているだけあって、作曲家たちの実験場、あるいは腕試しの場になっていたようで、非常に挑戦的で難易度の高い作品が多いです。


今回はその中でもとりわけ内容の充実した楽章を各作曲家から集めましたので、まさにメインディッシュ5品盛りの様相を呈しており、非常にやりがいがありました。


アンコールで演奏した作品について、少し説明不足だったように思いますので、この場を借りまして説明させていただきたいと思います。



今回のミサ《ロム・アルメ》の原曲である“L’homme armé”は、(旋律と歌詞が)完全な形ではたった一つの写本にしか残されていません(上図)。それが通称ナポリ写本と呼ばれる写本なのですが、“L’homme armé”が完全に残されているという歴史的重要性もさることながら、そこに収録されたミサ《ロム・アルメ》が非常に興味深い6曲一組のセットになっているのです。


1曲目から5曲目ではロム・アルメの旋律を5つに分解し、それぞれをカノンの技法によって様々に展開していきます。そして6曲目で初めてロム・アルメの旋律全体が使われます。壮大ななぞかけからの種明かしのようですが、ミサを6回やらないと種明かしされないので、これがどういう機会に演奏されたのか、あるいはされなかったのか、大変興味深いところです。


この日に演奏したアンコールは、この6曲一組のミサ《ロム・アルメ》のうち、1曲目のものからサンクトゥスを取り上げました。


1曲目では上のロムアルメの旋律の最初の4音しか使われません(下図)。そしてそこにはラテン語でカノン(指示書き)が書かれています。

曰く、

Bis vicibus binis gradatim vir in ordine scandit

Ut prius incessit, ipse retrograditur.

2回おきに順々に登り

同様に後退する。


これはつまり下図のように演奏するということです。

これは実はナポリ写本の同じページの、上のカノンのすぐ下に書かれています。

おそらくこのカノンだけでは当時の人もにわかには意味を理解できなくて、つまりこういうことですよという楽譜を書き入れてしまったのだと思います。(筆跡とペンが明らかに違うので、このアンチョコを書いたのは別人のようです)


そこで問題となるのは歌詞です。

このような既存の旋律をもとにしたミサ曲の場合、定旋律のパートがもとの旋律の歌詞を歌うのか(この曲の場合 “L’homme, l’homme”)、あるいはミサの歌詞を歌うのか(この曲の場合 "Sanctus Dominus Deus Sabbaoth")意見の分かれるところです。


私達は通常はミサの歌詞を定旋律に当てはめて歌う方を採用していますが、今回はあまりにもこの繰り返し上行し下行する旋律のが印象的なので、それを活かすために全て “L’homme, l’homme”で歌うこととしました。

テノールの歌詞はロームロームロームローム・・・のみ。なかなかサイコパスで面白い演奏になったかと思います。

下行していくときにも歌詞をどうするかというのは問題になったのですが、選択肢は3つありました。

①上行同様ロームロームロームローム・・・

②リズムをひっくり返してロムーロムーロムーロムー・・・

③言葉もひっくり返してムロームロームロームロー・・・


③はあまりにも面白すぎるので不採用にし笑、どうやら②のリズムのほうがバスのリズムと噛み合って面白いということで②を採用しま