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第30回 第3回定期演奏会の選曲コンセプト(その1)

今回は2017年4月22日・27日開催の

Salicus Kammerchor第3回定期演奏会

J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol. 3

〜詩編モテットと葬送モテット〜

についてその選曲コンセプトをお話させていただきます。

 選曲については第17回 J. S. バッハのモテット(その3)でも書いていますが、その時からかなり変更がありました(汗)。特に後半のプログラムについてはかなりガラリと変わっていますのでご了承ください。(これ書いたの去年の3月ですからねえ・・・)

 

構成

 まず演奏会全体の構成ですが、今回は前回と同じくJ. S. バッハのモテットを2曲取り上げ、メインプログラムといたしました。“Lobet den Herrn, alle Heiden” BWV 230と“Der Geist hilft unser Schwachheit auf” BWV 226がその2曲です。この2曲のモテットはそれぞれ異なったテーマをもったモテットです。

 “Lobet den Herrn, alle Heiden” BWV 230は使用用途不詳のモテットですが、テキストに詩編第117編がとられています。テキストに詩編が用いられているという点で第1回定期演奏会で演奏した"Singet dem Herrn ein neues Lied" BWV 225と共通です。

 前半はこのテキストに着目し、バッハ以前の作曲家の同一のテキストを用いた作品を時系列で演奏いたします。

 それに対してメインプログラム2曲目の“Der Geist hilft unser Schwachheit auf” BWV 226は全く違った目的の為に書かれました。このモテットはバッハのモテットの中で唯一成立年と使用機会がはっきりしているモテットで、1729年10月20日、トーマス学校長エルネスティの埋葬のために作曲されました。

 使用用途としては第2回定期演奏会で演奏した2曲のモテット“Komm, Jesu, komm” BWV 229と“Fürchte dich nicht, ich bin bei dir” BWV 228とよく似ています。後半は「死」にまつわる作品を集めました。

 “Lobet”と“Der Geist hilft”はそれぞれテキストと使用用途という観点から、「詩編モテット」と「葬送モテット」と言えるかと思います。今回はこのはっきりとしたコントラストのある作品群を対置させ、味わいの違いを感じて頂けるプログラムとなっております。

 

前半

〜詩編モテット〜

“Lobet den Herrn, alle Heiden” BWV 230を中心とした前半のプログラムは全て詩編第117編をテキストとしています。

以下がそのテキストです。

ラテン語

Laudate Dominum, omnes gentes, laudate eum, omnes populi.

Quoniam confirmata est super nos misericordia ejus, et veritas Domini manet in aeternum. Alleluja.

ドイツ語

Lobet den Herrn, alle Heiden, und preiset ihn, alle Völker! Denn seine Gnade und Wahrheit waltet über uns in Ewigkeit. Alleluja!

日本語

すべての国よ、主を賛美せよ。すべての民よ、主をほめたたえよ。

主の慈しみとまことはとこしえに/わたしたちを超えて力強い。ハレルヤ。

 前半の前半はラテン語、後半はドイツ語です。演奏曲目一覧は以下です。

 ラテン語作品は様々な国の作曲家を集めましたが、ドイツ語作品は必然的にドイツの作曲家です。以下それぞれについて簡単に解説していきます。(忙しい方は赤字のところだけ読んで下さい。バラエティ豊かな選曲であることがわかると思います)

 

ラテン語作品 "Laudate Dominum omnes gentes"

グレゴリオ聖歌 復活徹夜祭のための詠唱

 現行の典礼では復活徹夜祭の詠唱は7つあり、それぞれ朗読の後に歌われます。"Laudate"はその中で第4朗読の後に歌われる詠唱で、第8旋法のドミナント音であるc'の音を中心とした装飾豊かな聖歌です。

ピエール・ド・ラリュー

 ラリューはジョスカンと同世代のフランドルの作曲家で、ジョスカンと並び称せられる重要な作曲家です。4声の"Laudate"は上3声の完全なカノンに、バスのみ自由な対位法で作曲された作品です。

ルードヴィヒ・ゼンフル

 ゼンフルはフランドルの流れをくむスイス人の作曲家で、ドイツで活躍しました。彼は今年没後500年となるハインリヒ・イザークの大作「コラーリス・コンスタンティヌス」を完成させ出版したことで有名です。

 ゼンフルの"Laudate"は短い曲が6曲残されています。3声のカノンが3曲、このカノンはそれだけでも作品として成立していますが、その3声のカノンにそれぞれ1・2・3声部付け加え、4・5・6声として作曲されたものもあります。今回はこの4・5・6声の"Laudate"を演奏いたします。

トマス・タリス

パレストリーナと同じ時代を生き、彼より少し年上であったタリスはカトリックとプロテスタントの間で揺れ動いていた当時のイギリスにあって、ラテン語と英語、両方の言語による宗教声楽作品を作曲しました。

 これまでの2曲はいずれも3声のカノンを基礎としていましたが、タリスの作品は自由に作曲された5声のモテットです。全てのパートが低い音域に集中し、印象としては重厚で、ときおりタリスらしい刺激的な音のぶつかりが印象的な作品です。

トマス・ルイス・デ・ビクトリア

 ビクトリアはパレストリーナと並び称せられる後期ルネサンスの大作曲家です。典型的な複合唱の様式で作曲された"Laudate"は、2つのコーラスが歌い交わす華やかな作品です。

クラウディオ・モンテヴェルディ

 今年生誕450年を迎えたモンテヴェルディ(そう!今年はイザークイヤーでもあり、モンテヴェルディイヤーでもあるのです!)は初期バロックのイタリアを代表する作曲家で、中でも《聖母マリアの夕べの祈り》は、バッハのロ短調ミサと比較されるほど評価されています。

 この作品が収録されたのは『教会の合唱による6声の聖母マリアのミサ曲と多声の晩課、礼拝堂または王侯の私室用の若干の宗教曲付き』という恐ろしく長ったらしい名前の作品集ですが、この作品集と並んで有名な宗教声楽作品集として、『倫理的・宗教的な森』(すっきり短い名前!でも意味はわかりにくい!)があります。8声の"Laudate"はこの作品集に収録された作品で、2人の協奏的なソプラノと、6声の合唱が歌い交わすコンチェルタート様式の作品です。

 

ドイツ語作品 "Lobet den Herrn alle Heiden"

ガルス・ドレスラー

 ドレスラーはルネサンス期のドイツの作曲家で、彼自身ラテン語による作品が大半ですが、ドイツ語によるモテットの黎明期に重要な役割を果たしたことで音楽史に名を留めています。詩編に基づく作品も残しており、"Lobet"はそのうちの1曲です。ポリフォニーとホモフォニーの対置、終結部のアレルヤの反復が印象的な作品です。

ミヒャエル・プレトリウス

《音楽大全》を著したことで有名なプレトリウスは、同時に非常に多作な作曲家としても知られています。詩編第117編に基づくドイツ語作品も短い4声体の作品が3作品あり、今回はこれを3曲とも演奏します。同じ詩編に基づきながら、3種類の異なるドイツ語訳にそれぞれ付曲しており、その微妙な違いもお楽しみいただければと思います。

ハインリヒ・シュッツ

 シュッツはドイツ初期バロックを代表する作曲家です。年代としてはプレトリウスの少し後輩にあたり、若い頃にはザクセン公ヨハン・ゲオルグ1世の宮廷で彼の代理を務めることもあったようです。

 シュッツは詩編による作品集を2つ残しています。一つは《ダビデの詩編歌集》 SWV 22-47で、こちらはヨハン・ゲオルグ1世に献呈された意欲的で大規模、華やかな作品集です。それに対しもう一つの作品集《ベッカー詩編集》は4声体のシンプルな作品ばかりで、詩編150編全てに付曲されています。今回演奏する"Lobet"はこの作品集に収められています。

 この作品集は彼が妻を病で失った際に作曲したもので、その意味で後半のテーマ「葬送モテット」にも通じるものがあります。小さな作品ではありますが、彼の真摯さ、信仰の純粋さを表すような作品です。

ザムエル・シャイト

シャイトは生年の近いシュッツ、シャインとともにドイツ3大"S"と評されることもある作曲家です。6声の"Lobet"は《宗教コンチェルト集第4巻》に収められ、この曲集の名前の通りソロとトゥッティが交互に歌い交わすコンチェルタート様式の面白さが最大限発揮された作品です。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

 前半最後の曲はメインプログラムの1曲目、バッハのモテット中唯一の4声のモテットです。このモテットに関しては以前の記事で書いておりますので、コチラもご参照ください。

 

 長くなってしまったのでここで一区切りとさせていただきます。

 後半のプログラムについてはまた次回お話いたします。

 演奏会詳細については以下にリンクを入れております。また演奏会に先立って行われるワークショップでは演奏会で演奏する作品を題材にしています。どうぞご参照ください!

(櫻井元希)

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【Salicus Kammerchorの演奏会】

Salicus Kammerchorの次回公演は来年2018年5月の第4回定期演奏会です。

また関連公演として、Ensemble Salicusのデビューコンサートが10月18日に予定されています。

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【最新動画公開中!】

第2回定期演奏会より、Heinrich Schütz “Musikalische Exequien” op. 7 III. Canticum Simeonisを公開中です!

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【主宰の櫻井元希のウェブサイトはコチラ↓】

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