top of page

第28回 J. S. バッハの教会カンタータ(その3)

ライプツィヒ時代前半の教会カンタータ(38歳−41歳)

 1723年ライプツィヒに、トーマスカントルとして移り住んできたバッハは、毎週1曲の教会カンタータを演奏するという責務を負いました。この時期の前半に彼は、その殆どを自作によって賄うことに挑戦しました。

 教会カンタータは、教会暦に従って毎日曜日と祝日に演奏されます。その総数は1年間で約60曲にものぼります。これをカンタータ年巻と呼びますが、彼は生涯に5年分作曲したと彼の弟子と息子のC. P. E. バッハによって書かれた「故人略伝」には記されています。

 その記述を信じるならば、60×5年分で300曲もの教会カンタータを作曲したことになりますが、現在残されている教会カンタータは200曲に満たず、年巻の形で再現できるのは3年分のみです。

 彼はその殆どをライプツィヒに赴任した最初の3年間で書き上げました。「書き溜めた」と言ってもいいでしょう。カントルとしての業務を請け負うにあたって、これだけの教会カンタータのストックがあれば、その後の礼拝には旧作の再演で任務を全うすることが出来ます。

 この3年間をライプツィヒ時代前半としてそのカンタータの特徴をお話いたします。

 この時期バッハはほぼ毎週のようにカンタータを作曲しています。作曲するだけでなくそれをリハーサルして日曜日ごとに演奏しなければならなかったので、その仕事量たるや想像を絶するものがあります。バッハは計画的に、あらかじめ台本を4週分ほど用意し、並行して作曲にあたっていたようです。

 

ライプツィヒ時代初年度

 初年度にはヴァイマール時代の旧作の再演も見られますが、その多くはライプツィヒように大幅に改作されています。またケーテン時代の世俗カンタータに新しい歌詞を当てはめるといういわゆるパロディの手法を用いて改作されたものも見られます。

初年度に新作されたカンタータは以下の通りです。

BWV 22.23?.59?.75.76.24.167.136.105.46.179.69a.77.25.119.138.95.148.48.109.89.80b.194.60.90.40.64.190.153.65.154.155.73.81.83.144.155.73.81.83.144.181.66.134.67.104.166.86.37.44.194

 ここでは先日のジョイントコンサートでも演奏いたしましたBWV138を例として挙げておきます。 

 レチタティーヴォと合唱の交代が印象的なカンタータです。

"Warum betrübst du dich, mein Herz" BWV 138

 

第2年度

 赴任2年目には旧作の再演は殆ど見られず、新作をずらりと並べるバッハの勤勉ぶりが窺われます。第2年巻であるこの年のカンタータには一つの統一した特徴が見られます。この年巻のうちのおよそ10ヶ月分が「コラール・カンタータ」 で統一されているのです。

コラール・カンタータ

BWV

20. 2. 7. 135. 10. 93. 107. 178. 94. 101. 113. 33. 78. 99. 8. 130. 114. 96. 5. 180. 38. 115. 139. 26. 116. 62. 91. 121. 133. 122. 41. 123. 124. 3. 111. 92. 125. 126. 127. 1.

 コラール・カンタータとは、一つのコラールをカンタータ全体に渡って使用するというカンタータのことですが、バッハのコラール・カンタータには以下のような特徴があります。

1. 第1曲はコラールの第1節を使った大規模な合唱曲。

2. 終曲はコラールの最終節を使った簡潔な4声体合唱(いわゆるカンツィオナル様式)

3. 中間楽章はレチタティーヴォとアリアで構成されるが、テキストはコラールのテキストそのものではなく、それをレチタティーヴォやアリアの詩としてふさわしくなるようパラフレーズ(言い換え、再構築)したものが多い。

有名な78番のカンタータを例にその構造を見ていきましょう。

"Jesu, der du meine Seele" BWV 78

1. Choral

コラール第1節を歌詞も旋律も使用。定旋律はソプラノ。ラメントバス(通奏低音が半音階で下降していく特徴的な音型)が印象的な冒頭合唱。

2. Duet (Soprano & Alto)

コラール第2節の書き換え。通奏低音による伴奏ですが、バッハの教会カンタータとしては珍しくヴィオローネ(コントラバス)が独立したパートを受け持ち、終止ピチカートで奏します。

3. Recitativo (Tenor)

コラール第3節の1・2行目、第4節の5・6行目、第5節の7・8行目を引用。その他の部分は同節を自由に書き換え。第5節の引用箇所からアリオーゾとなり、スラーを伴った通奏低音の音型が不安な感情を表出し終止にはチェロの最低音Cが現ます。(しかもすっごいでっかく書いてる!)