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第29回 J. S. バッハの教会カンタータ(その4)


BWV29の2曲目 バッハによる自筆譜

カンタータについて

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第29回 J. S. バッハの教会カンタータ(その4)(この記事)

 

前回の記事ではバッハのライプツィヒ時代第3年度までをライプツィヒ時代前半として、この時期に書かれたカンタータについて解説してきました。

今回の記事ではライプツィヒ時代後半、第4年度以降のカンタータについてお話していきます。

 

ライプツィヒ時代第4年度

BWV43. 194?. 129?. 39. 88. 170. 187. 45. 102. 35. 17. 19. 27. 47. 169. 56. 49. 98. 55. 52. 36b. 58. 82. 157. 84.

 第3年度でかなりゆるやかになったバッハのカンタータ創作ですが、第4年度ではその傾向を引き継ぐものの、第3年度よりは多くのカンタータが作曲されました。

 この時期に特徴的なのは「ルードルシュタット詩華撰」という同一の歌詞本にもとづいた作品をまとまった数書いているということです(BWV43.39.17.88.45.187.102)。この時期の直前にバッハが再演したマイニンゲンの親戚、ヨハン・ルートヴィヒ・バッハの作品がこの歌詞本にもとづいており、バッハは彼の作品とともにこの歌詞本も入手していたものと思われます。

 「ルードルシュタット詩華撰」は一貫して、以下のようなシンメトリカルな歌詞の構成を持っています。

冒頭ーー旧約聖書の聖句

中間部ーー幾つかの自由詩(レチタティーヴォとアリア)

後半冒頭ーー新約聖書の聖句

中間部ーー幾つかの自由詩(レチタティーヴォとアリア)

終曲ーーコラール

 ここでは39番を例として挙げておきます。

"Brich dem Hungrigen dein Brot" BWV 39

1. 合唱ーー旧約聖書の聖句

 「貧しいものにはパンを分け与えよ」という歌詞の内容を絵画的に表現した音型、リコーダーとオーボエと弦による切れ切れにされたモチーフ(絶望的に音程が難しい)に始まる。

2. レチタティーヴォ(バス)ーー自由詩

 簡潔だが長大なレチタティーヴォセッコ。第1曲を受けて、隣人に対する憐れみの尊さを説く。

3. アリア(ソプラノ)ーー自由詩

 オーボエとヴァイオリンソロをオブリガートとするアリア。穏やかな音型によって、主が私たちを憐れんでくださるように、私たちもまた隣人を憐れむことが天国への道であると歌う。

4. アリア(バス)ーー新約聖書の聖句

 通奏低音のみの伴奏によるいわゆるコンティヌオアリア。兄弟愛を説く「ヘブライ人への手紙」第13章からの引用で慈善と施しこそ神の御心にかなうものだと歌う。

5. アリア(ソプラノ)ーー自由詩

 2本のリコーダーのユニゾンがオブリガート声部を奏するアリア。前曲の聖句を受けて、隣人に対して施しを行うことが御心にかなうのであって、神に対して捧げ物をすることは神の望むところではないと説く。

6. レチタティーヴォ(アルト)ーー自由詩

 弦楽合奏をともなったレチタティーヴォ・アコンパニャート。自分の持ち物は隣人に施し、ただ自分の霊だけを神に捧げると情熱的に語る。

7. 合唱ーーコラール

 D.デーニケのコラール「来たれ、主に教えを乞え」の第6節。貧しい人々とともに苦悩し、彼らのために祈る人の幸いをうたう安ら