第33回 第3回定期演奏会 各曲について(その2)
第3回定期演奏会曲目解説シリーズ
グレゴリオ聖歌 復活徹夜祭のための詠唱/ピエール・ド・ラリュー/ルードヴィヒ・ゼンフル「諸国よ主をほめ讃えよ」
その2(この記事)
トマス・タリス/トマス・ルイス・デ・ビクトリア/クラウディオ・モンテヴェルディ「諸国よ主をほめ讃えよ」
ガルス・ドレスラー/ ミヒャエル・プレトリウス/ハインリヒ・シュッツ/ザムエル・シャイト/ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「諸国よ主をほめ讃えよ」
グレゴリオ聖歌 死者のための聖務日課より応唱「私は信じる、贖い主は生きておられると」
その5
ニコラ・ゴンベール「至高のジュピターの子、ミューズよ」
ハインリヒ・シュッツ「それは確かに真なる」
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「御霊は我らの弱きを強め給う」BWV 226
前回の記事から、第3回定期演奏会の各曲についてお話しています。
今回は前半のプログラムより、トマス・タリス、トマス・ルイス・デ・ビクトリア、クラウディオ・モンテヴェルディの「諸国よ主をほめ讃えよ」について解説していきます。
トマス・タリス(ca.1505-1585)「諸国よ主をほめ讃えよ」
Thomas Tallis “Laudate Dominum omnes gentes”

タリスは16世紀のイングランドの作曲家で、ウィリアム・バードと同時期に活躍しました。プロテスタントである英国国教会と、伝統的なカトリックとの間で揺れ動いていた当時のイングランドにあって、タリスは比較的柔軟に、プロテスタント、カトリック両方の典礼のための音楽を作曲していたようです。 バードが生涯国教会忌避者であったのとは対照的といえるでしょう。信念を貫いたバードに対し、タリスはそういう意味ではより職人的だったといえるかもしれません。
人柄としても謙虚で控えめであったようで、作風も一見地味ですが(そんな彼が40声のモテット「望みをほかに」を作曲したことは大変意外です。何か特別な機会に書かれたのでしょう)、長い経験によって培われた熟練の技術によって卓越した作品を残しました。
5声の「諸国よ主をほめ讃えよ」は彼の後期の作品と考えられています。低い音域(ATTBB)に5声が密集し、重厚に響きます。抑制された表現の中にも、時折タリスらしい緊張感のある和音が聞かれる美しい作品です。
今回は16世紀イングランド風のラテン語発音で演奏いたします。 これがなかなか曲者で、フレンチやイタリアン、ジャーマンの発音には慣れているメンバーも苦戦しています。しかし発音をイングランド風にすることで、ほかの国や地域の作曲家の作品とは違ったキャラクターが垣間見えてきて、なかなか興味深いです。
たとえばデュファイやジョスカンのラテン語作品をフレンチ以外の発音で演奏することは、もうフレンチで歌うことに慣れ親しんだ者にとってはかなり違和感を覚えますが、イングランドの作曲家の作品を演奏する際も、そういった感覚が芽生えるのかどうか、楽しみにしながら演奏していきたいと思います。
発音を変えると、音楽の流れが変わります。これは特に子音の発音によるところが大きいです。そして母音が変わると、音色、サウンドの質自体がかなり変わります。こういった微妙な差もお楽しみいただければと思います。
トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548-1611)「諸国よ主をほめ讃えよ」
Tomás Luis de Victoria “Laudate Dominum omnes gentes”<