第36回 第3回定期演奏会 各曲について(その5)

第3回定期演奏会曲目解説シリーズ

その1

グレゴリオ聖歌 復活徹夜祭のための詠唱/ピエール・ド・ラリュー/ルードヴィヒ・ゼンフル「諸国よ主をほめ讃えよ」

その2

トマス・タリス/トマス・ルイス・デ・ビクトリア/クラウディオ・モンテヴェルディ「諸国よ主をほめ讃えよ」

その3

ガルス・ドレスラー/ ミヒャエル・プレトリウス/ハインリヒ・シュッツ/ザムエル・シャイト/ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「諸国よ主をほめ讃えよ」

その4

グレゴリオ聖歌 死者のための聖務日課より応唱「私は信じる、贖い主は生きておられると」

ギヨーム・デュファイ「めでたし天の元后」

ジョスカン・デ・プレ「われらの父よ/アヴェ・マリア」

ハインリヒ・イザーク「誰が私の頭に水を与えるのか?」

その5(この記事)

ニコラ・ゴンベール「至高のジュピターの子、ミューズよ」

ハインリヒ・シュッツ「それは確かに真なる」

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「御霊は我らの弱きを強め給う」BWV 226

第3回定期演奏会で演奏する各曲について解説しているシリーズのいよいよ最終回です。

ゴンベールとシュッツとバッハの作品について解説しました!

ニコラ・ゴンベール(1495-1560)「至高のジュピターの子、ミューズよ」

Nicolas Gombert “Musae Iovis ter maximi“

 ゴンベールはジョスカンの次の世代、いわゆるポスト・ジョスカン世代と呼ばれる作曲家たちの中でも重要な作曲家の一人です。通模倣(歌詞のセクションごとに全てのパートが一つのモティーフを模倣し合う)を非常に好んで用いました。しかし今回演奏する作品はテノールに定旋律があるタイプの楽曲ですのでこの技法は用いられていません。

 またゴンベールは4声よりも5声や6声、それも低い音域のパートを重複させることを好みました。「至高のジュピターの子、ミューズよ」もその例に漏れず、現代の音域区分に照らし合わせると、アルト・テノール×3、バス×2という具合で、全てのパートを男性で演奏することも可能な6声の重厚な作品です。ジョスカンの死に際して書かれたテキストを時に豊かに、時に陰鬱に表現しています。

テノールに用いられた定旋律はジョスカンが好んで用いたものです(図:テノール2のパート譜)。最初は非常に長い音価で提示され、徐々に音価を減らしながら(楽譜では拍子記号によってそれが示されています)4回繰り返されます。テキストの最後の連は3拍子となり、ジョスカンのジュピターに対する神秘的な呼びかけが表現されます。

(演奏に7分以上かかるこの作品ですが、テノール2の楽譜はこれで全てです↑)

ハインリヒ・シュッツ「それは確かに真なる」

Heinrich Schütz “Das ist je gewisslich wahr”

 シュッツが87歳という長寿を全うしたのに対し、彼のわずか4ヶ月後に生まれたシャインは44歳という若さで亡くなりました。生前も病気に苦しめられ、妻は子どもの出産時に亡くなり、5人いた子どものうち4人が幼いうちに亡くなっています。

 ドイツ3大S(シュッツ、シャイン、シャイト)は互いに交流がありましたが、特にシュッツとシャインの親交は深く、シュッツは死の床にあるシャインを訪れ、頼みに応じてこの作品を作曲しました。シュッツと同じく妻や子どもたちの死を多く経験したシャインが選んだテキストはティモテへの手紙一より第1章15-17節でした。自らが罪人であることを告白し、しかしむしろだからこそイエスによって救われるのだという確信が語られています。

(1648年に出版されたGeistliche Chor Musikよりアルトパート)

 シュッツはこれを非常に劇的に音楽化しました。3拍子で書かれた「イエスがこの世に来た」の部分は恐ろしく神秘的で感動的です。その後に続くテキストも時に畳み掛けるように、時に淡々と、時に高らかに表現されます。

 終結部分「永遠の王なる神」からは全声部が声を揃えて神を讃えますが、もはやこれは叫びとしか言いようがなく、ポリフォニックに畳み掛ける永遠の栄光と誉れに言及する部分を経過してトランス状態のアーメンへとなだれ込んで曲を閉じます。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「御霊は我らの弱きを強め給う」

J. S. Bach “Der Geist hilft unser Schwachheit auf” BWV 226

 二重合唱によるバッハのモテット「御霊は我らの弱きを強め給う」はバッハの他のモテットにはない特徴を二つ持っています。

 一つは成立年代と使用機会が確定している唯一のモテットであるという点です。このモテットは1729年10月20日に行われた、トーマス学校長ヨハン・ハインリヒ・エルネスティの埋葬のために作曲されました。他のいくつかのバッハのモテットも葬式や追悼式のために作曲されたと推測されるものはありますが、確実にわかっているのはこの作品のみです(図:BWV 226のタイトルページ、使用機会と使用テキストが書かれています→)。

 もう一つは、器楽によるパート譜が残されている唯一のモテットであるという点です。第一合唱には弦楽器(ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ)が、第二合唱には木管(オーボエ2、ターユ、バソン)が合唱を全く重複する形で記譜されています。他に「ヴィオローネ(コントラバスの前身)と通奏低音」(図↓)と、オルガンのパート譜が残されているため、少なくともヴィオローネ以外にも通奏低音を演奏した楽器があったようですが、具体的に何の楽器であったかはわかりません。このパートも合唱のバスの声部を重複しますので、この声部は合唱バス、チェロ、バソン、ヴィオローネ、何らかの通奏低音楽器、オルガンという大編成であったことがわかります(今回は楽器を重複せず、通奏低音にはオルガンとヴィオローネを用います)。

 エルネスティの死が突然訪れたため、バッハにはこのモテット演奏のためにリハーサルも含めわずか4日しか猶予がありませんでした。そのためこのモテットの一部が既存のカンタータ楽章のパロディではないかとする説もあります。しかし例えそうであったとしても、たった4日でこれだけ大規模なモテットの演奏をやってのけたということは十分驚嘆に値します。

 このモテットは大きく4つのセクションに分かれています。第1部は快活な3/8拍子で「聖霊」の羽ばたき(図↓)を象徴するメリスマのパッセージが特徴的です。二群の合唱の掛け合いが非常に鮮やかで、葬送のためのモテットとは思えない爽やかで疾走感のある曲調となっています。

 第2部は「ですが聖霊は私たちをこの上なく良くとりなしてくださる」というテキストから始まり、4/4拍子となります。シンコペーションのリズムをもったテーマを各パートが口々に歌い出すフガートとなっています。第2部後半のテキスト「言葉に言い表せないようなため息によって」の部分には文字通りの「ため息のモティーフ」(2つの8分音符を結んだ音型。図↓)がみられます。型通りの方法もバッハにかかると、容易には聴取出来ないほど非常に複雑なテクスチャの中に織り込まれ、陳腐な印象は全く受けません。

 第3部は「心を究める者は」のテキストで始まるAlla breveで4声のフーガです。“Der aber die Herzen forschet, Der weiß, was des Geistes Sinn sei”の部分で一通りテーマ(①)の提示が終わると、今度は“Denn er vertritt die Heiligen”で全く別の主題(②)と対主題(③)が歌われます。後半ではこの3つの要素が折り重なり、ポリテキストのポリフォニーとなり、最後の5小節でようやく“Nach dem, das Gott gefället”のテキストがあらわれ、このセクションを結びます。

 第4部はマルティン・ルターのコラール「来たれ聖霊、主なる神」の第3節で、シンプルな4声体で作曲されています。「死を通してあなたへ至る」というキリスト教の根幹の思想が語られ、全曲を締めくくります。

【次回公演】

Salicus Kammerchorの次回公演は来年2018年5月の第4回定期演奏会です。

また関連公演として、Ensemble Salicusのデビューコンサートが10月18日に予定されています。

詳細はコチラ↓

http://www.salicuskammerchor.com/concert

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