第44回 アレクサンダー・アグリコラ「第2旋法のミサ」

 今回は11月30日のEnsemble Salicusの演奏会で演奏する、アレクサンダー・アグリコラのミサについてお話いたします。

 知名度はあまり高くないですが、16世紀には大変高く評価されていて、古楽好きの方にはぜひおさえておいていただきたい作曲家の一人です。

Ensemble Salicusの演奏会詳細↓

https://www.salicuskammerchor.com/concert

———アレクサンダー・アグリコラって誰?

アレクサンダー・アグリコラAlexander Agricola(1446?-1506)。この名前を聞いてピンとくる人がこの国にどれだけいるでしょうか。(ピンときてしまったあなた、あなたは相当な古楽オタクです)

 ルネサンス期の作曲家といえば、G. P. da パレストリーナ(1525?-1594)、T. L. de ビクトリア(1548-1611)、W. バード(1543?-1623)などのビッグネームがまず挙がるかと思いますが、これらの作曲家は皆後期ルネサンス、16世紀の作曲家です。ルネサンスの教会音楽というと、シンプルで透明感のあるこれらの作曲家のポリフォニー(多声音楽)を想像される方が多いかと思います。

 今回私達が演奏するアグリコラは、彼らより100年ほど前に活躍した作曲家です。この頃の作曲家たちの多くはフランドル地方出身であったため、フランドル楽派と呼ばれています。フランドル楽派の作曲家の中で誰よりも一番有名なのはジョスカン・デ・プレ(1450/55?-1521)でしょう。ジョスカンの名前はいわゆる普通のクラシックファンの方でも名前だけは聞いたことがあるという方が多いのではないでしょうか。古楽ファンの中には、昨年没後500年を迎えたハインリヒ・イザーク(ca. 1450-1517)や、今年没後500年のピエール・ド・ラ・リュー(ca. 1460-1518)の音楽に親しまれている方も少なくないと思います。

 アグリコラは16世紀の理論書の中で、ジョスカン、イザーク、ラ・リューと並び称せられ、この時代を代表する作曲家として紹介されている作曲家です。ミラノ、カンブレ、フィレンツェ、ブルゴーニュ等で活動し、ブルゴーニュ宮廷ではフィリップ美公のもと、ラ・リューとともに歌手として働いていました。この頃のブルゴーニュ宮廷礼拝堂聖歌隊には他に、シャンピオン、ディヴィティス、ヴェールベケ、オルトーといった歌手がいましたが、彼らはアグリコラやラ・リューを含め全員、歌手であると同時に作曲家でした。

———歌手兼作曲家の猛者たち

 歌手は歌手、作曲家は作曲家と専門化が進んだ現代の感覚からすると、彼らのようなマルチプレイヤーに対するイメージは湧きにくいかもしれません。しかしそういった環境の中で、お互いの作品を実際に歌いながら、影響を与えあっていたということは、彼らの創作と実践を考える上で欠くことのできない背景なのです。

 アグリコラの作品は同時代の他の作曲家と比べ、かなり奇想天外で型破りです。このことも、彼の作品を演奏した歌手が皆作曲家であったということを考え合わせると、納得のいく部分もあろうかと思います。つまり同じ作曲家同士で演奏するということで、いかにお互いの想像を超えることができるかということを楽しんでいたのではないでしょうか。ラ・リューの作品の中にも、時として目を疑う(耳も疑う)ような複雑さをもったものがありますが、それもこの作曲家同士の実践の中で生まれていったものと考えることができます。

———第2旋法のミサに現れる「鬼才の片鱗」

 今回演奏する「第2旋法のミサ」Missa secundi toniの中にも、そういった複雑怪奇なフレーズがたくさん現れますが、そのいくつかを紹介いたします。

1.不協和音、いわゆる音のぶつかりの例

 こちらは第1キリエの終結部分です。丸で囲って曲線で結んだ部分が、音のぶつかっている箇所です。ぶつかりすぎですよね。目を疑いますよね。聴いていても耳を疑うと思います。

 最上声部(スペリウス)をご覧いただくと、終止音まで10拍ありますが、10拍中5拍がぶつかっています。聞いていても、音のぶつかりが凄いということは聞き取れるかと思いますが、何より凄いのは、こんなに音がぶつかっているのに、なんとかギリギリで崩壊を免れながら音楽として成立しているということです。

 そしてこのような連続した音のぶつかりは、全曲を通して頻繁に用いられています。

2.複雑なリズム

 こちらはグロリアの一節です。シンコペーション、いろいろな音価に現れる付点リズム、細かい音による上昇、極めつけはバスに現れる三連音符です。模倣も見られますが、そうでない不規則なリズムがなんとも言えない無重力的音空間を生み出します。

 このような複雑なリズムも、このミサの中にはごく普通に現れます。

3.謎のウネウネ

 こちらもグロリアからです。この部分はフォーブルドンという技法で、3声が3度と4度の音の幅を保って並行しています。最後の部分を見てください。最上声部(スペリウス)とそのひとつ下の声部(コントラテノール)が、fis-e-fis-e-fis-e-fisとcis-h- cis-h- cis-h-cisと隣同士の音を行ったり来たり行ったり来たりウネウネウネウネ・・・。きっと初演の際も、リハーサルの最初の回では皆爆笑したに違いありません。これはもう聴いていても「ナンジャコリャア」というつぶやきが漏れること請け合いです。

4.正気を疑う連続シンコペーション

 おわかりいただけますでしょうか。わかりませんね笑。あまりに長くて1段に収めようとするとこんなに小さくなってしまいました。

 こちらはベネディクトゥスに現れるコントラテノールとバスによる長大なデュエットの一部です。コントラテノールが23拍に渡ってシンコペーションのリズムを歌います。連続したシンコペーションなので、あたかも23回裏打ちをしているかのような感じになります。しかもその間、相方のバスは規則正しく表拍を歌い続けています。単純な繰り返しで単調になってしまわないのかと思われるかと思います。単調です。しかしこれだけ単調なものが続くと、それに続く部分の華やかさが一層際立ちます。まだ終わらないのか、まだ終わらないのかという緊張感が引き伸ばされるからこそ、それがついに終わったときの感動が弾けるのです。

 しかしこれは本当に挑戦的です。挑発的であるとさえ言えるかもしれません。アグリコラは奇人であると同時に、ある種の気合いのようなものを持ち合わせた人であったのではないかと想像させます。

 ここに挙げたのはほんの一例です。実際にお聴きになると、そこかしこにアグリコラの鬼才の片鱗を感じていただけると思います。現代ではあまり知られていませんが、16世紀には大変評価の高かった、アグリコラの音楽をお楽しみいただけたら幸いです。

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【Ensemble Salicus演奏会】

アレクサンダー・アグリコラのミサ曲

日時:2018年11月30日(金)19:00開演(18:30開場)

会場:大森福興教会

詳細はコチラ↓

http://www.salicuskammerchor.com/concert

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