第45回　待降節第1主日のミサ

　11月30日のEnsemble Salicusの演奏会では、アレクサンダー・アグリコラのミサを、典礼の式次第に沿う形で演奏いたしますが、その際待降節第1主日のミサを想定してプログラムを構成しました。今回はこの主日に関することと、グレゴリオ聖歌の歌い方について記事を書きました。

　これを読んで演奏会にお越しいただきますと、きっと2倍！演奏をお楽しみいただけると思います。ぜひご一読ください。

Ensemble Salicusの演奏会詳細↓

https://www.salicuskammerchor.com/concert

———待降節第1主日のミサ

　今回11月末という時期に合わせて、待降節第1主日のミサを想定し、典礼形式に従うかたちでプログラムを構成しました。この主日は教会暦の最初の主日で、私達が歌い方の参考にしている、10世紀の聖歌集の写本のなかでも冒頭に掲載されています。

　演奏会のチラシに使用したのはザンクトガレン376写本ですが、冒頭だけあって大変美しく文字が装飾されています。

Ad TE（TとEがくっついてます） LEVAVI ANIMAMと書いてあります

文字の上に見える、曲線や直線が古ネウマです

　他の写本（スライドショー参照）においてもかなり気合の入った飾り文字が使われているのですが、美しすぎたがゆえに、アインジーデルン121の写本では、なんとこの最初のページが（おそらく盗難にあって）切り取られてしまっています。この写本、他のページの飾り文字も大変美しいので、この最初のページが欠けてしまっているのは悲劇としか言いようがありません。

　この主日はクリスマスの4週前にあたり、降誕節を準備する期間とされています。この時期には普段、通常唱としてキリエのあとに歌われる栄光の賛歌「グロリア」が省略されます。今回もこの定めにしたがってミサの中ではグロリアは省略いたします。しかし、アグリコラのグロリアを歌わないのは大変もったいないので、ミサを終えた後にグロリアを演奏いたします。

———固有唱と通常唱

　通常唱の話が出ましたので、簡単にミサの式次第についてお話したいします。ミサの中には、一年中どのミサでも同じテキストが歌われる「通常唱」と日によって歌うテキストが変化する、「固有唱」があります。ある主日に固有の歌だから、固有唱といいます。

　ミサ曲というのは、テキストが一年中変わらない通常唱に作曲されたものをいいます。今回もアレクサンダー・アグリコラの作曲したのはこの通常唱の部分で、固有唱はグレゴリオ聖歌で歌います。

（前述の通り、今回のプログラムでは3番のグロリアは省略いたします）

　これだけでもなかなか複雑と感じられるかもしれませんが、実はこれに更に司祭の唱える部分や、司祭、助祭による朗読加わりますので、それらすべてを含めるともう少し複雑になってしまいます。

　ポリフォニー（多声音楽）が始まったら「通常唱」、単旋律でみんなで歌ってたら「固有唱」、一人でボソボソ唱えてるなあと思ったらその他の部分、と思っておいていただくと、典礼についてよくわからなくても、ひとまず迷子にならずに済むかと思います。

———「なんらかの」特殊な歌い方

　待降節第1主日のミサ固有唱は詩編の第25編、第85編をテキストとし、救い主の到来を待ち望む、期待感に満ちた歌となっています。その期待感を表すためでしょうか、なんらかの特殊な歌い方を示すとされる「特殊ネウマ」が多用され、かなり装飾的な歌回しが求められています。

Alleluia "Ostende nobis"

クィリスマ、ディストロファ、プレッススマヨールが見られる

　この「特殊ネウマ」ですが、「なんらかの」というところがポイントで、具体的にどういう歌い方だったのか、実ははっきりと分かっていません。Ensemble Salicusはこの特殊ネウマに注目し、その歌い方の可能性を模索しています。今回のコンサートでも、現段階で私達の持っている情報を精査し、妥当と考えられる歌い方を採用しますが、まだまだ研究しがいのある分野と言えるでしょう。

　微分音や音のずり上げ、ずり下げなど、コブシ的とも思える微妙な歌い方を用いていますので、注目（注耳？）してお聴きいただければ幸いです。