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第16回 J. S. バッハのモテット(その2)

J. S. バッハのモテット

第15回 J. S. バッハのモテット(その1)

第16回 J. S. バッハのモテット(その2)(この記事)

第17回 J. S. バッハのモテット(その3)

第18回 J. S. バッハのモテット(その4)

 

前回は2015年5月に行われました、第1回演奏会のプログラムコンセプトと、そこでメインプログラムとしました"Singet dem Herrn ein neues Lied" BWV 225についてお話しいたしました。

 今回は今年2016年に行われます、第2回定期演奏会のプログラムについてお話しさせていただきます。

第2回 『Melete Thanatou~死が照らし出す生の輝き~』(2016年5月) “Komm, Jesu, komm” BWV229 “Fürchte dich nicht” BWV228を中心としたプログラム (詳細はコチラ  2016年の定期演奏会です。追悼式に用いられたと考えられているバッハのモテットを2曲取り上げ、その他死にまつわる作品を選曲致しました。前半にはハインリヒ・シュッツの《音楽による葬儀》op.7を全曲演奏いたします。この作品は1636年、シュッツの良き理解者であった、ハインリヒ・ポストフームス公が亡くなった際に作曲された作品です。3つの楽曲が一組になった作品で、それぞれ「ドイツ埋葬ミサの形式によるコンチェルト」「モテット」「シメオンのカンティクム」という別名を持っています。全て演奏すると30分を超える大作です。  後半には、シュッツの作品の第3部のテキストでもあったシメオンのカンティクムをグレゴリオ聖歌で歌います。続く2作品はそれぞれ、オケゲムの作品はバンショワの死を悼んで、ジョスカンの作品はオケゲムの死を悼んで作曲されたモテットです。  そして後半の最後に、バッハのモテット“Komm, Jesu, komm”と“Fürchte dich nicht”の2曲を演奏いたします。 ――・――・――・――・――

“Komm, Jesu, komm” BWV229

 このモテットは、おそらく追悼式のために作られた2重合唱のモテットでです。前回取り上げた"Singet"も2重合唱でしたが、"Singet"が3部構成で14分程かかる大規模な曲であるのに対し、"Komm, Jesu"は2部構成の9分ほどの曲です。

 それも第2部は簡潔な4声体のコラール風の曲ですので、かなりシンプルな構成を持っていると言えます。

 しかし!シンプルな構成の中でも単純には作曲しないのがバッハのバッハたるゆえん。このシンプルな構成の中に、極めて劇的な展開、色とりどりの和声がちりばめられています。

 冒頭のKomm(来て下さい)という印象的な3度の呼びかけ(伝統的フィグーレンレーレではクリマクスといいます。ネウマにも同名のネウマがありますが関連が興味深いです)(譜例1)、müde(疲れた)という単語にあてられた衝撃的な479の和音(協和音に対して3つの非和声音をぶつけた和音)(譜例2)、die Saure Weg(険しい道)という文にあてられた減7度の跳躍(譜例3)など、バッハの工夫は枚挙にいとまがありません。

(譜例1)"Komm" 冒頭部分、(・/・)は歌詞の繰り返しを表します。

(譜例2)"müde" 〇を付けた音が非和声音

(譜例3)"die saure Weg" バスのテーマ、BからCisへの減7度下降

 その上g-Mollで始まったこの曲は、B-Dur.f-Moll.c-Moll.d-Moll.Es-Durと目まぐるしく転調し、更に拍子も3/2→4/4→6/8→3/4と、まるで組曲(舞曲をいくつかまとめて連作した形式)のように変化します。