第7回 歌い手にとっての音律(その2)「ミーントーン」


歌い手にとっての音律

第6回 歌い手にとっての音律(その1)

第7回 歌い手にとっての音律(その2)(この記事)

第8回 歌い手にとっての音律(その3)

第9回 歌い手にとっての音律(その4)

4回かけて、サリクスが用いるいくつかの音律についてお話しいたしました。

第6回ではピタゴラス音律

第7回ではミーントーン

第8回ではヤング等の不等分音律

第9回では純正調(厳密には音律ではありません)

についてお話しています。

ミーントーン(アロンのミーントーン/中全音律)  前回のピタゴラス音律に続いて、今回はミーントーンのお話です。  ピタゴラス音律が使われていた時代、ヨーロッパ大陸の音楽家にとっては、長3度は不協和な音と捉えられていたというお話を前回致しました。しかしイギリス人にとっては、かなり早い段階から長3度の音程も美しいとされていたようで、その音楽が大陸に流入されるようになってからは大陸でも長3度が調和すると考えられるようになってきました。 長3度の音程というのは、純正にとると平均律より14セント低くなります。それに対してピタゴラス音律の長3度は平均律より8セントも高いので、その差は22セント(これをシントニックコンマといいます)もあります。長3度を美しいと捉える価値観の中で生まれた音楽には、ピタゴラス音律は対応できないのです。  そこで長3度を純正に響かせることのできる調律法が現れました。それがミーントーン(アロンのミーントーン/中全音律)と呼ばれる音律です。  これは簡単に説明すると、長3度を純正にする為に5度を犠牲にした調律法です。以下の図をご覧下さい。

ミーントーン五度圏図

(今回はあくまでわかりやすさを優先させていますので、小数点以下を四捨五入しています)

 Cから長3度を取るためには、C-G-D-A-Eと、4回5度を積み重ねることになります。普通に純正に5度を取ってしまうと、長3度は先ほど説明したシントニックコンマ分高くなってしまいます。ミーントーンは、このシントニックコンマを4回の5度にそれぞれ均等に振り分けた音律なのです。4回5度を重ねるうちに22セント分狭くすることになるので、22を4で割った6セント弱を1回の5度に振り分けるということです。  その結果、702セントで純正だった5度は、約696セントになります。  700セントでぴったり一回りする5度を狭くしますので、当然しわ寄せとしてどこかの5度を広くしなければなりません。  上の図ではそれをEsとGisの間に持ってきています。そう、先ほどのピタゴラス音律の時のウルフの5度と同じ場所ですね。つまり、この5度をまたぐ音程は使えない、広すぎる音程となるということです。例えばAsとCの長3度は、この音程をまたいでしまっているので美しく響きません。 ミーントーンの特徴 ミーントーンは、ピタゴラス音律と全く逆の特徴を持っています。  全音は狭く、半音は広くなります。ファは高く、ミは低くとります。  ミとファを例にとると、ミは平均律より14セント低く、ファは平均律より約4セント高くなります。つまりその半音の幅は平均律よりも18セントも広いのです。(ところで、ミとかファとか言っていますが、これはヘクサコルドの階名のことです)  平均律に慣れた私たちの耳にとっては、これはなかなかの違和感です。半音がこれだけ広いとかなり音痴に聞こえます。しかし旋律は音痴に聞こえますが、和音は大変美しく聞こえます。  ミーントーンで調律されたオルガンの響きを聴いてみましょう。

J. Pachelbel / Aria Sebaldina

 初めは少し違和感を感じますが、しばらく聴いていると、広い半音にもそれなりの味があって、なにより長3度の音程の美しさが際立って心地よく聴こえてくると思います。 歌い手としての意識  ミーントーンが好んで用いられたのは、ルネサンス中期から初期バロック時代です。この時代にあっても、ミは固く、ファは柔らかいというのは変わりませんでした。ピタゴラス音律の場合半音の狭さがそのキャラクターを際立たせてくれますが、ミーントーンの場合はそれがなかなか難しくなります。 ミは固いけど低く、ファは柔らかいけど高く、なのです。私たちはともすると、音程の微妙な変化を、音色を変えることで処理しがちです。音程を上げようとすると、音を固く明るくそして浅くしがちです。しかしファの音を高くするためにそうした処理をすると、ファの柔らかいキャラクターが損なわれてしまうのです。  それがミーントーンを歌う上で気をつけなければならないところだと思います。  音程だけ合って聴こえればいいというものではもちろん無いので。その音程を利用することで、表現の助けにしなければなりません。  音程を気にするあまり、表現を失っては本末転倒です。それは目的と手段を履き違えていることになります。

【次回予告】

 さて、このように長3度を純正にとることの出来るミーントーンですが、音楽の発展(というか人間の欲というか)とともに使われる調性が増え、複雑な転調が行われるようになると、徐々に対応できなくなってきました。  ミーントーンの弱点は先ほどEsとGisの間に作った広い5度をまたぐ音程が使えないということでした。GisをGisとして調律してしまうと、EとGisは純正ですが、CとAsは大変広くなってしまうため、Asとしては使えないのです。  これは言い換えると、ある音をその音として調律してしまうと、その音の異名同音の音が使えないということです。つまり、異名同音ではなく、異名異音ミーントーンにおいては、AsとGisは別の音なのです。同様にEsとDis、BとAis、DesとCisなども、調律する際に予めどちらの音にするか決めておかなければなりません。  この異名異音問題を解決するために、分割鍵盤といって例えば件のAsとGisの場合、同じ鍵盤を前後に分割して、一方をGisに、一方をAsに調律して両方使えるようにした楽器も登場しました。

N. Vincentino / Musica prisca caput

 すっごいですよね。この楽器は本当に魅力的だと思いますが、楽器の構造も複雑になると同時に演奏も非常に複雑になってしまいます。  そこで、鍵盤を分割しなくても異名同音が使える調律法が求められました。

 バロック期の数多ある古典調律(不等分音律)はそのような試行錯誤の賜物です。  これらの多くは、ピタゴラス音律とミーントーンのあいのこ、あるいは折衷案のような特徴をもっています。次回はこの不等分音律、特にヤング第2調律法についてお話しようと思います。

(櫻井元希)

【次の記事】

第8回 歌い手にとっての音律(その3)

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【次回公演】

Salicus Kammerchorの次回公演は『第3回定期演奏会』です。

4月22日(土)14:00開演

横浜市栄区民文化センター リリスホール

4月27日(木)19:15開演

台東区生涯活動センター ミレニアムホール

曲目

”Lobe, den Herrn alle Heiden” BWV 230

”Der Geist hilft unser Schwachheit auf” BWV 226

詳細はコチラ↓

http://www.salicuskammerchor.com/concert

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【最新動画配信!】

第2回定期演奏会より、Heinrich Schütz “Musikalische Exequien” op. 7 III. Canticum Simeonisを公開中です!

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