第12回 記譜法の歴史(その1)

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以前の記事で
と、「グレゴリオ聖歌→フランドルのポリフォニー→バッハの声楽曲」というSalicus Kammerchorの選曲コンセプトのお話をしました。
今回は、記譜法の変遷という観点からこの流れを跡付けようと思います。
取り上げるのは、
古ネウマ→四角譜→計量記譜法→現代譜
です。
もちろんこれらの間には沢山の段階やバリエーションが存在しますが、それら全てを詳説はしていません。あくまでエッセンスを、単純化して話しているものと思ってください。
古ネウマ
まずは第3回でもお話したネウマからです。ネウマとは簡単に言えば「音の身振りを書きとめたもの」でした。地域によってさまざまな体系のネウマが用いられましたが、今回は第3回でも取り上げた、ザンクトガレン式ネウマを見ていきます。
この写本は990-1000年に書かれた写本で、Salve Reginaという聖歌の楽譜です。

順序立てて、基本となるネウマをご紹介します。
単音のネウマ

「高い、低い」というのは前後の音程と比べた時にということで、絶対的な音高を示すものではありません。ヴィルガは先へ続いていくような、トラクトゥルスは落ち着くような、プンクトゥムは軽やかな身振りを伴っています。
2音のネウマ

音程の高低が逆なだけで、2音の関係性はよく似ています。ティ↓ヤーン↑とティ↑ヤーン↓という感じです。1つ目の音が2つ目の音に流れていく身振りがあります。
重要なのはこの2つの音を、1つのネウマとしてとらえるという事です。現代の記譜法にはこのような概念が無いので(スラーで音を繋ぐことはできますが)この2つの音が別々の2つの音ではなくひとつのものであるということを腹の底に落とすことが、意外と難しいです。
3音のネウマ

ネウマは大体書いてあるように歌えばその意図する通りになります。音の身振りを表したものなので、その形のようなイメージで歌えばよいのです。ティ↓ヤ↑ラ↓、ティ↑ヤー↓ラ↑、タ↓タ↑ティー↑、タ↑ラ↓ラ↓という感じです。これもまた3つでひとまとまり、1つのネウマとしてとらえることが重要です。
見た目でイメージしづらいのはクリマクスの1音目でしょうか。これは見た目長そうですが、基本形では2音目、3音目と同じくらい軽く歌います。