第14回 記譜法の歴史(その3)

記譜法の歴史 第12回 記譜法の歴史(その1) 第13回 記譜法の歴史(その2) 第14回 記譜法の歴史(その3)(この記事)
記譜法の歴史シリーズ最終回です。
第12回 記譜法の歴史(その1)
ではネウマから四角譜への変遷を、
第13回 記譜法の歴史(その2)
では四角譜から計量記譜への変遷を見ていきました。
記譜法が発展することで、書き記すことのできるようになったことと、逆に書き記すことができなくなったことがあり、この書き記すことのできなくなったことを知ることが演奏の手掛かりになるというお話をいたしました。
今回は計量記譜から現代譜への変遷を見ていきます。(といっても現代の楽譜も計量記譜法の一種なので、ルネサンス期の計量記譜法から現代の計量記譜法への変遷といった方が正しいのですが、この度は分かりやすいように、前者を計量記譜、後者を現代譜としています)
計量記譜の時代、記譜の方法自体とは別に、楽譜の形態として現代と異なる部分がありました。
総譜とパート譜
現代の楽譜の形態は、大きく分けて二つの形があります。それは総譜(スコア)とパート譜です。例えばバッハの時代もそれは変わりません。
総譜はすべてのパートが縦に同時に見渡せるように並べられた楽譜です。 楽譜を縦に見渡せば、同時に何の音が鳴っているのか一目瞭然なのが利点です。反対に、縦関係を常に保つために、休符をつめて書くことが出来ません。またパート譜に比べると1ページに入る小節数が少なくなるので、譜めくりが多くなります。現代では指揮者用の楽譜、あるいはオーケストラメンバーの学習用などに用いられています。
BWV47の総譜(J. S. バッハの自筆)D-B Mus. ms. Bach P 163

それに対してパート譜はアンサンブルの中の1つの声部だけを取り出して、まとめた楽譜です。現代ではオーケストラの器楽奏者はこれを見て演奏しています。
下の楽譜を見ると、初めに62小節のお休みがありますが、15個のロンガ休符と1つのセミブレビス休符を使って示されています。ロンガはセミブレビス(全音符)4つ分、セミブレヴィスは2つ分なので、4x15+2=62拍というわけです。
パート譜の利点はこのように休符をまとめてしまって少ない紙面で示すことが出来、紙の節約になること。また譜めくりが少なくて済むことなどがあげられます。
BWV47のソプラノパート譜(J. S. バッハ他の手による)D-B Mus. ms. Bach St 104

クワイヤブックとパートブック
現代譜はだいたいこのパート譜か総譜なのですが、計量記譜の時代には(多声声楽曲の場合)主にクワイヤブックとパートブックという2つの楽譜の形態をとっていました。
クワイヤブックとは、総譜と同じように1枚の見開きの中にすべてのパートが記譜されているのですが、各パートが縦に並べられている総譜とは違い、ひとパートずつ固められて記譜されているのが特徴です。
Josquin Desprez: Missa Faisant regretz
Choirbook, D-Ju MS 3

通常上の楽譜のように、左上にSuperius(ソプラノ)、左下にTenor、右上にCont